日本の賞与制度は、江戸時代、盆暮れ正月に奉公人に配っていた「仕着」が原型になっているといわれています。今では考えられないことですが、休みもやく働く奉公人のために、盆暮れ正月ぐらいは実家に帰って、骨休めをしてきなさいということなのでしょう。
海外の賞与制度を見てみると、アメリカは年末ボーナスとして出ることはあるようですが、管理職や中間層以上の人だけだったり、イギリスはそもそも賞与の概念がなく、業績に応じて臨時的に支給されていたり、まちまちのようです。
ただ、西欧においては、年何回というような賃金の一部というよりも、業績が達成した場合の臨時的な分配という性格が強いように感じます。
そういう意味でいえば、日本の賞与制度は、風習と結びついている部分があり、賞与支給の既得権化は西欧よりも強いかもしれません。業績が上がらなければ賞与がないという割り切った考え方の西欧の風土とは違うところです。
この点が、日本の賞与の難しい点かもしれまません。賞与を支給する上で、生活と業績という2つの基準から考え、かつバランスを取らなければならない。
賞与の支給額を決定するとき、昨年対比・額を気にされる中小企業の社長は多いと思います。これは、賞与支給を業績1本で支給できない、生活とのバランスを見ざるを得ない典型的な行動であると思います。
だからといって、このような日本の独特の賞与制度をなくし、業績で分配する賞与制度を作ろうといっているのではありません。
本稿では、生活と業績のバランスのとれた賞与システムの作り方をご紹介していきたいと思います。
<目 次>
1.賞与体系について
1-1.生活と業績のバランスのとり方
1-2.経営を安定化させながら動機付けする賞与制度
2.基礎賞与と業績賞与の内容
2-1.基礎賞与
2-2.業績賞与
3.まとめ
1.賞与体系について
「生活と業績のバランスがとれる賞与制度」
これが本稿のテーマです。
このテーマを分解してみます。
生活:生活給的な賞与で、基本給に対する割合で決定します。本稿では基礎賞与といいます。
業績:業績給的な賞与で、人事考課に応じて決定します。本稿では業績賞与といいます。
バランス:基礎賞与と業績賞与の割合をいいます。この割合は社長の考え方によって違ってきます。
「生活と業績のバランスがとれる賞与制度」を設計する出発点は、生活賞与と業績賞与の比率を決定することです。
生活重視の賞与制度にするか、業績重視の賞与制度にするか、あるいは、半々の賞与制度にするかです。
生活賞与:業績賞与=〇:〇
当然、生活重視の場合には、生活賞与の割合が高くなり、業績重視の場合には業績賞与の割合が高くなります。
実際の実務においては、様々なシミュレーションをすることでこの割合をきめていくことになりますが、迷った場合には、まずは5:5からはじめることをお勧めいたしまします。
<賞与予算の体型>
経営の安定というのは、賞与予算を遵守するということです。
これは、当たり前のことだと思われるかもしれませんが、従来の賞与制度ではあり得ることでした。日本の一般的な賞与支給の基準は、基本給×〇ヶ月というものです。さらに、昨年対比や勤務状態を見ながら調整をしていきます。
基本給×〇ヶ月+調整額
この式は、いわゆる積み上げによる賞与設定になります。この場合、賞与予算は設定するものの、蓋を開けてみると、賞与予算を超えていたということがあり得ます。超過した賞与予算を個人に戻してさらに調整する、という調整の連鎖に入っていきます。
この面倒な調整の連鎖を断ち切るためには、賞与予算から逆算した分配型の賞与を導入する必要性があります。本稿でいえば、業績賞与の考え方です。
ロジックはこうです。
賞与予算の設定
↓
基礎賞与の設定
↓
業績予算の設定(賞与予算-基礎賞与)
↓
等級と評価によって、業績賞与を分配
簡単なロジックです。おわかりのことだと思いますが、このロジックだと絶対に賞与予算を超えることはありません。
経営の安定化を賞与制度でとらえた場合ポイントになるのは、賞与予算の設定とその運営にあると考えています。その意味でいえば、賞与予算を前提とした分配システムを構築するのは重要です。
さらに、このロジックでいけば、賞与予算を増加させるのは、業績です。
業績と自分の賞与が連動しているということの実感は、従業員の動機付けにも貢献します。
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2.基礎賞与と業績賞与の内容
2-1:基礎賞与の内容
基礎賞与の設定は簡単です。従来型の賞与支給と同様に、賞与基礎額の割合で設定をします。
賞与基礎額は、一般的には基本給の会社が多いと思いますが、会社に応じては、家族手当を含めたり、役職手当を含める会社もあります。
基礎賞与=賞与基礎額(基本給)×〇〇%(〇ヶ月)
〇〇%の設定の仕方は、賞与体系のところで記載いたしましたが、業績賞与とのバランスで決まってきます。
さらに、理論上は、毎回このパーセントを変更することも可能です。しかし、基礎賞与の性格上、生活保障的な意味合いが強いため、ある程度変更はせず運用することをお勧めいたします。
2-2:業績賞与
業績賞与の原資は、賞与予算から基礎賞与額を引いた額になります。
業績賞与予算=賞与予算-基礎賞与額
あとはこの業績賞与予算を、等級と評価で分配していく仕組みを作ることになります。
分配の仕方は色々とありますが、本稿ではポイント式の賞与分配方式をご提案いたします。
ポイント式賞与分配方式の最初の一歩は、以下のような業績賞与ポイント表を作ることからはじまります。
横軸が等級で、縦軸が評価です。
ポイントは、横軸・縦軸の端にある係数の設定にあります。この係数の幅が広くなるほど、等級間あるいは評価間の賞与額の差が広がることになります。具体的にはシミュレーションを実施することで、係数を設定していきます。
本ポイント表を設定できたら、あとは計算するだけになります。
計算の手順は以下のようになります。
1)各従業員の業績賞与ポイントを合計します。
2)業績賞与予算を業績賞与ポイントで割ると、1ポイントあたりの業績賞与額が出ます。
3)1ポイントあたりの業績賞与額を各人の業績ポイントにかけることで、各人の業績賞与額を算出します。
上記のポイント表や計算式を見ていただけば、お感じになられると思います。
業績賞与には、現在の基本給や手当が反映されていません。業績賞与は、属人的な要素を一切排除した、役割とその評価によって支給される賞与となります。
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3.まとめ
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日本の慣習に沿いながら、業績に連動した賞与をいかに作るのかというコンセプトで本稿を書きました。現実の人事コンサルの現場では、色々な賞与システムを作っていきますが、本稿の賞与システムは特に中小企業にあったシステムです。
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本記事が皆様の人事制度構築に参考になれば幸いです。