【ナラティブ・アプローチ】を用いた組織課題解決

「正しい知識はなぜ実践することができないのか」

これまで多くの素晴らしい経済学者や組織論について研究されている方によって科学的に「正しい答え」が出されてきました。その「正しい答え」を出す研究はとても素晴らしく、私自身感銘を受け実際に影響を受けているものも多くあります。

しかし、そんな「正しい答え」をいざ現実の経営や組織のなかで実践しようとした際に、「知識として正しいことと、実践の間には会社規模感や風土など様々な要因で実践に至れない、大きな隔たりを感じる。」という方も多いのではないでしょうか。

今回は、あまり企業規模や組織風土などの環境に左右されない、どの企業にもある社員同士、社内組織の「関係性」に視点を当て、課題を解決していく【ナラティブ・アプローチ】についてお伝えいたします。

<目 次>
1.【ナラティブ・アプローチ】とは
1-1.【ナラティブ・アプローチ】の意味
1-2.そもそもナラティブ(物語)とは何か?
2.【ナラティブ・アプローチ】の実践


 

1.【ナラティブ・アプローチ】とは

1-1:【ナラティブ・アプローチ】の意味

【ナラティブ・アプローチ】は、相談相手や患者などを支援する際に、相手の語る「物語(narrative)」を通して解決法を見出していくアプローチ方法です。1990年代に臨床心理学の領域から生まれましたが、現在では医療やソーシャルワークなどの分野でも実践され、応用として経営組織方法としても取り入れられ始めています。【ナラティブ・アプローチ】の中でも、特に相談者の自主的な語りを重視する実践的な心理療法は【ナラティブ・セラピー】と呼ばれます。

1-2:そもそもナラティブ(物語)とは何か?

【ナラティブ・アプローチ】における、「ナラティブ(物語)」とはそもそも何なのでしょうか。
【ナラティブ・アプローチ】が登場する以前にも、カウンセリングなどの心理療法では患者の語る言葉に耳を傾けるということを行ってきました。それら従来の心理療法では、患者の言葉に耳を傾けるのは、あくまでも「患者の言葉から、患者の客観的な状態を理解するため」です。
それに対して、【ナラティブ・アプローチ】において患者の言葉に耳を傾けるのは、「患者の言葉から、患者の解釈を理解するため」です。ナラティブ(物語)は患者の解釈と捉えるとわかりやすいでしょう。

患者が自分について語るとき、それは事実とは限りません。自分なりの脚色が多く含まれていることもあります。しかし解釈そのものに着目し、患者の解釈を、セラピストとの共同作業で新たなものに更新することができたとき、患者の状態が大きく改善されることを【ナラティブ・アプローチ】は主張しています。
従来のカウンセリングと【ナラティブ・アプローチ】とは、「患者の語る言葉に耳を傾ける」という意味では同じです。
しかし立ち位置は、患者の客観的な状態に着目するのか、患者の解釈に着目するのかという意味で、大きく異なるものとなっています。

【ナラティブ・アプローチ】について少しイメージできましたでしょうか?
それでは、組織論として【ナラティブ・アプローチ】の実践方法についてお伝えいたします。

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2.【ナラティブ・アプローチ】の実践

【ナラティブ・アプローチ】の基本的な手法は、以下のようなものとなります。

1.準備「溝に気づく」
→相手と自分のナラティブに溝(適応課題)があることに気づく
2.観察「溝の向こうを眺める」
→相手の行動や状況を見聞きし、溝の位置や相手のナラティブを探る
3.解釈「溝を渡り橋を設計する」
→溝を飛び越えて、橋(課題解決への関係性)が架けられそうな場所に掛け方を探る
4.介入「溝に橋をかける」
→実際に行動することで、橋(新しい関係性)を築く。

    1. 準備「溝に気づく」
      まず、色々な手段を実践しようとしても、相手がいうことをきいてくれない、なかなか動いてくれない、話が通じない場合は一度、自分の「ナラティブ」を脇に置く、「準備」が必要です。自分自身の「ナラティブ」に対して疑問点、問題点を感じている場合は冷静に状況把握ができないことが多くあります。自分の「ナラティブ」を脇に置き、相手との間の溝に気づくことができれば、「私とその問題」から「私とあなた」というように問題点から関係性にシフトするかと思います。すると、自分の「ナラティブ」にとらわれていては気づくことのできなかった、相手ならではの事情や状況(相手のナラティブ)、が少しずつ姿を現してきます。

 

    1. 観察「溝の向こうを眺める」
      準備段階で、自分と相手の「ナラティブ」に隔たりがあることがわかると、次は溝の向こうにいる相手が一体どんな環境、職業倫理の枠組みで仕事をしているのか、その「ナラティブ」を知ることが大切です。
      相手にどのようなプレッシャーがかかっているのか、どのような責任があるのか、仕事上のどのようなことに関心があるのか、それはなぜなのか。などいくつも気づきがあるかと思います。課題の発生には、発生の原因が必ずあります。その原因がわかると、こちらからどのようにアプローチしていけばいいのかなどの手がかりになるものが見えてくるかと思います。
      この様に、「観察」とはこちらがどの様に働きかけることができるのか、そのリソースを掘り起こすための作業になります。この「観察」段階をどれだけじっくり取り組むかでこの後の「解釈」「介入」での取り組みに広がりが生まれます。

 

    1. 解釈「溝を渡り橋を設計する」
      観察することで、相手の「ナラティブ」を把握することができれば、自分の言っていることと、やろうとしていることが、相手にとって意味あるものとして受け入れられるために必要なポイントが浮き彫りになってくるはずです。
      この「解釈」の段階は溝に橋を架けるために、どこにどの様な橋をかけていくのかの設計をしていきます。そのためにもまず、相手の「ナラティブ」のあり方、形や様子にの解釈をしてみましょう。つまり、橋を架ける前に溝を飛び越え、相手側の環境、状況を想像し、どこに橋を架けることが理想的かよく眺めてみます。その上で相手側から自分の「ナラティブ」を見るとどこなら橋を架けられるか、どこに架ければ効果的かがはっきり見えてくることでしょう。中にはこれまで見ることのできなかった意外な発見や道筋を見つけることができるかもしれません。

 

  1. 介入「溝に橋をかける」
    実際に橋(新しい関係性)を築くのが「介入」の段階になります。「準備」〜「解釈」まで相手のことをよく調べ、考えてきたので、「介入」の段階ではここぞというタイミングを狙って具体的に行動に移りましょう。この段階まで来ていればうまくいきそうなポイント、タイミングも見えてきつつあるはずです。実際に橋をかけた際に、うまく橋が架かることもあれば、架からない場合もあります。また、ここでとても重要なポイントが橋が架かったことを手放しで喜ぶのではなく、冷静に本当に架かっているのか、ぐらつきはないのかの「チェック」を行うということです。ここでもし、橋が架かっていない、ぐらつきがあると言った少しの心配でも見つけた場合は一度「観察」段階に戻り、じっくり相手の「ナラティブ」を再観察することで、徐々に頑丈な橋を架けることができる様になります。

また、ここまで「準備」〜「介入」まで4つの段階でご説明してきましたが、この4つの中で「準備」の段階が全ての始まりとなる最も重要な段階となります。

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今回は【ナラティブ・アプローチ】を用いた組織課題解決について本稿を書きました。
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本記事が皆さまのご参考になれば幸いです。

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